物語消費しすぎ地獄へようこそ

何かしら作られたもの、作られてしまうもの=物語を消費せずに一日を終われない。

月のふりかえり 2021年5月~小説編

今月読んだ小説は2冊きり。

表題作の映画を見て手に取った本。
物理学や数学をモチーフにした短編はかなり手ごわくて、ちゃんと理解できていないと思う。

それと表題作は、映画を見ていなかったらたぶん半分もわからなかったと思う。
異星人の言語を知ることで夢のような、悪夢のような能力を手に入れてしまうが、それでも人生を「前に向かって」進んでいこうとする主人公の強さがかっこよかった。

「地獄とは神の不在なり」の、天使の降臨が普通にある世界や、「顔の美酷について-ドキュメンタリー」で顔の美醜だけがわからなくなる外科的処置が普通にできるようになった世界など、現実だったらどうかしらと今も考えてしまう。

「顔の美酷について-ドキュメンタリー」は次が最終回のNHKドラマ「きれいのくに」と世界観が似ている。ドラマの制作者はきっとこの小説を読んだに違いない。

  • 分類:小説
  • 作者:仲野芳恵
  • 題名:幸福な星
  • 出版社・レーベル:日本経済新聞出版
  • 評価:★★★☆☆

知能や記憶力を高めるためのチップを子どもに埋め込むことを国家として推進している国に生まれた人たちのなかにも、その外科手術に適合しない人たちがいる。
ナチュラルと呼ばれるその人たちは、そうでない非ナチュラルと比べ、貧困を余儀なくされ、社会的地位も低い。
そんなナチュラルの主人公・キカとその友達のメイの話。

設定が面白そうだったので買ったのだが、中心人物とその周辺の話で終始してしまっているのが残念だった。
分断社会を生きる恵まれない人の独白が小説になっている作品でも、その世界がどう動いていくのかマクロの視点を内包している作品がある一方で、登場人物の感情だけを表現するような本書みたいな小説にはちょっと食い足りなさを感じてしまった。