物語消費しすぎ地獄へようこそ

何かしら作られたもの、作られてしまうもの=物語を消費せずに一日を終われない。

2020年度読んでよかった本3冊~小説・物語、評論・エッセイ・随筆編

去年と同じく今年も昨年度読んでよかった本を3冊選ぶことにする。
在宅メインとなり通勤時間実質0時間となった。勤務時間外ではサブスクでドラマや映画ばかり見てしまって読んだ本は本当に少なかった。

こんなところで働きたい

働くことや働く人をモチーフにした小説を多く書いてきている中でも、これは著者の登場人物への眼差しが優しいなとおもった。

ターミナル駅から徒歩10分ぐらいのところにある椿ビルディングに入っている会社に勤める30代の女性、20代の男性、塾に通う小学5年生男子が、ビルの物置き場を介してほのかに交流する。それぞれ会社や塾・学校で大なり小なり問題や嫌なことを抱えているが、それをなんとかやり過ごしている。

ビルには他に喫茶店や文房具店、カフェ、エステ店など様々な業種の店や会社が入っている。彼らはそれらの店や会社の人と特別親しい訳でもない。でも荒天の日に助け合ったりする仲でもある。津村記久子らしさ満点で、伏線の回収具合がとても気持ちよかった。お仕事万歳といったわかりやすいメッセージを込めていないのもいい。人の日常の営みとはこういうことなんだとおもった。

ウエストウイング (朝日文庫)

ウエストウイング (朝日文庫)

ギレアデ建国はノンフィクションたりうる

Huluで「ハンドメイズ・テイル/侍女の物語」をシーズン3まで見てからこの原作を読んだ。
原作は超保守宗教国家ギレアデが崩壊したのちの研究学会での発表が最終章で、建国の経緯や崩壊の詳細は描かれないが、保守勢力がマイノリティをどう排除しどうコントロールするのか、そのやり方が実にリアルで、ああ、これってもしかして今の日本かもなとおもったりして酷く気持ちが落ちたりもした。

ギレアデの建国理念は聖書にあり、支配者は白人男性たちで、女性は支配者の妻、女中、侍女、娼婦のどれかに分類され、仕事も財産も持てない。侍女は支配者にあてがわれる出産能力のある女性で、産む機械となって支配者に仕えなくていけない。

男性たちは厳格に階級分けされていて、領土拡張で目覚ましい活躍をしたら支配層に食い込めたり、妻が出産すると支配層になれたりもする。

これらに分類されない男性たちや女性たちは辺境で放射性廃棄物の処理をやらされている。性的マイノリティは処刑される。堕胎をしたことのある医師、堕胎処置を受けた女性も処刑される。処刑があまりに身近で誰も驚かないところが怖い。というか現実にもあるでしょ、こういう国。国民は制服の色でその役割がわかる様になっている。これは以前の中国のようだ。

1985年に出版された本書に書かれていることが35年を経て現実になることを著者は想像していただろうか、というくらいギレアデで行われているようなことが現実の世界で行われている。35年前にはSFのお話だったのに、今はノンフィクションとしても読めるなんて怖い時代になったものだ。人類必読の書だとおもう。

そして昨年続編の『誓願』が出版された。

魂のしぶとさを信じよう

  • 分類:エッセイ
  • 作者:稲垣諭
  • 題名:大丈夫、死ぬには及ばない 今、大学生に何が起きているのか
  • 出版社・レーベル:学芸みらい社

著者は大学で哲学を教える講師。その授業で学生から集めたリアクションペーパーやメールでのやり取りを発端とした、講師と学生の交流の記録。

学生たちのおかれている状況を解説し、病気になったり死んだりしてしまったりしないいわば「魂のしぶとさ」を獲得するための戦略や心の持ちようはどうしたら持てるのか。人の心は案外強いのだということを信じる著者のような先生に出会えた学生たちは幸せだ。