年末年始に義実家に帰省。やることがないので読書がはかどった~
作家の井上光晴と瀬戸内晴美(のちの寂聴)の不倫関係をセンセーショナルではない方法で描いた小説。井上とその妻、瀬戸内の不思議な(はた目には不可解な)関係を井上の娘である著者が書いた。
帯の惹句を見て興味本位で読んでみたのだが、不可解であるもののけっこう魅力的な関係だと思った。この関係は妻の力というか性質によるものが大きかったのではないか。井上という男はモテる男で、ふりきるとこうなるといういい見本だ。
川上弘美が解説で書いていたが、みはる(瀬戸内晴美の本書内での名前)のターンの章では瀬戸内晴美味を感じて、とても不思議な気がした。
瀬戸内晴美はこの関係を創作に昇華したんだろうと思う。中にはもちろん近くにもいたくない関係なので、これを小説にした著者の心のうちがはかりかねる。小説家の娘に生まれた業というか宿命でも感じていたのだろうか。
とっても楽しい短編集。
- レコーダー定置網漁
- 心を(おそらく仕事で)やられた女性が刑事コロンボを録画していたはずが番組が終わっていて代わりに録画されていた番組を消さずになんとなく見ているうちに少しずつ生活力をとりもどしていく。この予定外の番組がめちゃくちゃ好み。物語消費記久子。
- 台所の停戦
- 3世代で住む女3人。台所の使い方の違いやら料理の方法やらについての母の娘に対する言動がはじめは気になっていたのだが、母の母から受けていた扱いに思い至り、それを継承すまいとする。シリアス記久子。
- 現代生活手帖
- 配達員指定サービスだとか行政が提供するサービスの内容から察するにどうやら近未来の話らしい。すごく好きな話。SF記久子。
- 牢名主
- A群・B群といった人を二分する性質の話で、A群に心をやられた人たちの話。ホラー記久子。
- 粗食インスタグラム
- キラキラな食事風景をインスタグラムで見ると嫌悪感を覚えるOL。毎食何を食べるべきか選ぶのにエネルギーを使えない人で、共感度MAX。
- フェリシティの面接
- え!?〇ップルって女性が作ったんだっけ?フェミ記久子。
- メダカと猫と密室
- 働く人々によりそう記久子。
- イン・ザ・シティ
- いろいろある学生たちの話。ノスタルジア記久子。
- 分類:小説
- 作者:陸秋槎、稲村文吾(翻訳)
- 題名:雪が白いとき、かつそのときに限り
- 出版社・レーベル:ハヤカワポケットミステリ
- 評価:★★★☆☆
高校の生徒会長と司書の教師が5年前の学生寮で起きた女子生徒死亡事件を調べるが、同じような状況で女子生徒が死ぬ。
動機が理解不能。
あと数か月で大学を卒業するホリガイの独白体で書かれており、話があっちこっちするような感じではじめは読みにくかったが、冒頭のシーンが最後につながる構成はさすが。
クラスの飲み会で酔いつぶれたアスミちゃんをホリガイが自分の下宿のアパートに泊めたところから始まる人間関係が、大学という狭い世界の中の表面的なものにとどまらない。どの行動も会話ものちの生活や人生に大きな意味をもつかもしれないというお話なんだけど、読後すごい小説を読んだなとしか思えないほど心が震えた。
著者のデビュー作にして太宰治賞受賞作。