物語消費しすぎ地獄へようこそ

何かしら作られたもの、作られてしまうもの=物語を消費せずに一日を終われない。

2019年度読んでよかった本3冊~小説・物語、評論・エッセイ・随筆編

昨年読んだ本でよかったのをまとめようと思ったら2020年度が始まってしまったので、2019年度読んでよかった本としてまとめることにしました。

働くことが生きることと同義になっている人々

  • 分類:小説
  • 作者:津村記久子
  • 題名:ポースケ
  • 出版社・レーベル:中公文庫

著者の芥川賞受賞作『ポトスライムの舟 (講談社文庫)』の続編とされている作品だけれど、前作を読んでいなくてもまったく関係なく読める作品。

30代のヨシカという女性が経営する食堂(カフェ時間もあり)でよく食事をする人たちや、バイトをする人たちのそれぞれの事情が描かれる。津村記久子さんは群像劇が本当にうまい。ヨシカの店は常連もいれば、一元さんも入りやすい店でもある。

登場人物はみな、前の職場や今の職場においてパワハラモラハラで再起不能になるぐらいのひどい目にあったり、自分一人ではどうしようもできなかったことで落ち込んだりした人たちが、それでも働くことをやめない。働くことが生きることと同義になっている人々だ。

終盤の「ポースケ」のシーンと終了後のお食事会がとってもいい。
そしていいのは本編だけじゃなくて、この小説を書くにあたって著者が取材した人たちに触れたあとがきもすばらしいのだ。
この小説は折に触れて再読したいとおもう。

ポースケ (中公文庫)

ポースケ (中公文庫)

これからいいことが起こるよ、たぶんね

インドの不可触民の母子、イタリアで毛髪加工業を営む一家・カナダで弁護士をしているシングルマザーの人生が最後にひとつながりになるのが気持ちよかった。本書は著者にとって初めての小説だったらしいが、脚本では成功しているそうで、初めてとは思えない巧みなストーリー展開で、読んでいる最中は小説を読む喜びを感じまくった。
フェミニズム文学としても意義のある作品だとおもう。
映画化進行中だそうなので、映像もたのしみだ。

三つ編み

三つ編み

物語をもっと楽しみたい、もっと深く理解したい

  • 分類:評論
  • 作者:北村紗衣
  • 題名:お砂糖とスパイスと爆発的な何か: 不真面目な批評家によるフェミニスト批評入門
  • 出版社・レーベル:書肆侃侃房

著者はシェイクスピア作品をフェミニスト的観点から分析するという研究をしている文学研究者で、本書は既存の小説や映画をフェミニスト的観点で批評するとおもしろいよと、その手法を解説し具体的にかなりの作品を分析してみせる。

たとえば、今までのプリンセスたちとはまったく違う新しいエルサというプリンセス(というかクイーンか)を描きフェミニストたちをもうならせた「アナと雪の女王」でさえ、著者によれば、たしかに男を必要としないプリンセスという画期的なヒロイン像を提示したが、エルサのあの氷のお城を作り上げるだけのすごい力を最終的には庶民が楽しく遊べる公園の遊具のような平凡なものをつくるということに押し込めなくては生きていけなかったと言い切る。かっこいい!!

今後の物語消費に新しい観点を与えてくれた本だった。