物語消費しすぎ地獄へようこそ

何かしら作られたもの、作られてしまうもの=物語を消費せずに一日を終われない。

人妻魂

  • 分類:エッセイ
  • 作者:嵐山光三郎
  • 題名:人妻魂
  • 評価:★★★★★

人妻という言葉ほど男心をコトコトと煮込み、ムラムラといらだたせ、ビリビリとしびれさせるものはありません。背骨に電線が一本埋めこまれたようなシビレ感があるのです。
人妻→官能→嫉妬→不倫→離婚→再婚→流浪→淫乱→覚醒→心中→自立→遊蕩→熟成→昼寝、と、妄想ははてしなく広がりますが、さしあたって気になるのは、隣家の人妻です。

「はじめに」の冒頭から嵐山光三郎先生の筆致がさえわたっています。
これはもう最初から期待は高まりますね。
この調子で最初の坪内逍遥の妻せんから森瑤子まで53人をめった斬りです。

中村屋創始者の妻の相馬黒光を「スーパー人妻」と呼び、若松賤子の章では

聡明なる人妻は若くして死に、無反省なグータラ妻が長生きをするのです。

と世のグータラ妻をDISるのです。

与謝野鉄幹と結婚して次から次へと12人の子を産んだ与謝野晶子にたいしては

ぽっちゃりと美しかった晶子は、晩年はメロンパンおばさんみたいな顔になってしまった。かわいそうに。

と同情してるんだかなんだかわからないけどなんかひどい言いよう。メロンパンて。

それとイラストレーターにたいして何か厭な思いをしたのか、竹久夢二の妻と恋人の章では

いまでも、人気イラストレーターは女性によくもてて、つぎからつぎへと女たちをたぶらかしていきます。

年ごろの娘さんがいる父親は、娘を中年のイラストレーターに近づけないほうがいいです。

なんて書いている。これは何かあったよね。

また『二十四の瞳』の作者を「デブのおばさん」といったり、林芙美子を「鰻を食べすぎてトン死した悲しい人妻」といったり、独壇場です。1章に必ずひとつはこういったふっと笑ってしまうフレーズがある。

この本はほんとうにおもしろかったのでもっと読まれてほしい。文庫にはなっていないのが不思議だ。ちくま文庫向きだと思うんですがいかがでしょうか。
と、思ってAmazonで検索したら『文人悪妻』という題名で出版されていました。
しかも『文人悪妻』も買ってたよ、わたし。なにやってんだ。

人妻魂

人妻魂

文人悪妻 (新潮文庫)

文人悪妻 (新潮文庫)


北原白秋と3人の妻についてが気になったので、これを探すことにします。

ここ過ぎて―白秋と三人の妻〈上〉 (新潮文庫)

ここ過ぎて―白秋と三人の妻〈上〉 (新潮文庫)

ここ過ぎて―白秋と三人の妻〈下〉 (新潮文庫)

ここ過ぎて―白秋と三人の妻〈下〉 (新潮文庫)